根来塗 盆
根来塗 盆
Item Code: K1716
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室町時代から桃山時代にかけての根来塗隅切膳です。朱漆が大きく剥落し、下の黒漆と素地がのぞく古格あるデザインです。底面は黒漆塗で、中央に「一」の字、左下に「井口」の銘が朱漆で記されています。寸法は縦横36.5cm、高さ3.5cmで時代を経たものとしては修復もなく、驚くほど良好な状態を保っています。
根来塗は日本を代表する漆芸様式の一つです。完璧な光沢ではなく時が流れる中で朱漆が徐々に摩耗し、下の黒漆が姿を現す「経年変化」そのものの美しさが愛でられてきました。その名は現在の和歌山県にあった真言宗の有力寺院、根来寺に由来します。平安時代後期から室町時代にかけて宗教的・経済的な巨大拠点として、僧侶の生活に必要な祭祀具や什器、日常雑器などを製作する工房を備えていました。根来の作品は本来、椀や膳、経台、硯箱など、日常的に手で扱う実用品でした。堅牢な木地に黒漆を下塗りしその上に朱漆を重ねるという手法がとられたのは、実用性を重んじたためです。根来塗の真髄は使い込むほどに変化していく過程にあります。愛用されるうちに縁や手で触れる部分の朱漆が薄れ、自然と下の黒漆が現れます。数十年、あるいは数世紀を経て縁は手の脂で黒ずみ、角は丸みを帯び、表面は古建築のように趣のある表情へと変化します。これは意図された装飾ではなく使い込まれた「時」の痕跡です。こうした性質は後に茶人たちに深く共鳴し、侘びの精神――静かな不完全さ、謙虚さ、そして永続性――を体現するものとして高く評価されました。1585年、豊臣秀吉による根来攻めで寺院の大部分が焼失し僧侶が離散したことで、現地での製作は事実上終焉を迎えました。しかし皮肉なことに、この破局が根来塗を後世に残すこととなります。数々の品が武士や商人、茶人たちの手に渡りその美学的価値が再認識されたのです。桃山時代 後期から江戸時代 初期にかけてはすでに古根来として愛蔵される存在となっていました。江戸時代には茶の湯の文化に深く浸透し、備前焼や信楽の壺、古竹の道具などと同様、時を拒むのではなく時の刻印を帯びたものとして茶人たちに重宝されました。
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